場をつくるのか、場からつくるのか:Page①ジャイアント食堂を振り返る稲継:「ジャイアント食堂」報告会トークの2本目ということで、「場をつくるのか、場からつくるのか」というタイトルで始めます。私は司会をします、居間 theaterの稲継と申します。皆さん今日は台風なのに本当にありがとうございます。
まず私から、今日のトークに参加してくれる方を紹介します。居間 theaterが最初に活動を開始した最小文化複合施設HAGISO(東京谷中)を運営する会社HAGISOの代表であり建築家の、宮崎晃吉さんです。ジャイアント食堂も見に来てくれたので、今回はそういう縁もあってお呼びしました。 次に、八戸市美術館職員の山内伶奈さんです。ジャイアント食堂をつくる際に、我々は東京から遠隔で準備をする時間が長かったのですが、我々と現地との調整をほとんどしてくださいました。山内さん、ありがとうございます。 そして、今回一緒に作品をつくってくれた建築家の森純平さんです。森さんは八戸市美術館の共同設計者の一人でもあります。あと同じく居間 theaterの山崎朋を交えて、5人でお話ししたいと思います。 まず、この報告会のために記録チームが映像と写真を色々と出してくれたので、映像を見ながら、どういう作品だったのかを話したいと思います。もう一つのトークでも同じものをお見せしたのですが、二度目の方は副音声が山崎に変わるので、それをお楽しみください。 山崎:八戸市美術館にいらっしゃったことある方ってどれくらいいらっしゃいます? あ、結構多いですね!
八戸市美術館に入ってすぐのところに、だだっ広い空間でジャイアントルームと呼ばれる部屋があります。八戸市美術館は去年(2021年)の11月にオープンしたばかりの新しい建物で、美術館の特徴とも言えるのがこのジャイアントルームという場所です。(美術館のコンセプトが、)いわゆる美術の「モノ」だけではなく、人々が集まって活動したり、そこから出会ったり学び合ったり、何かをつくり出したりという「コト」も重点的に扱っていきたいということで。とはいえオープンしたばかりの美術館なので、どんな使い方ができるかとか、さらには、まだ美術館に足を運んだことのない地域の人々にも知ってもらう機会にもなればと、居間 theaterにお声がけをいただいて、1日のイベントとして「ジャイアント食堂」をつくりました。 普段の開館時間は朝10時から夜19時までですが、どの時間に来ても体験できるものにしたいなと考えていました。そこで通常の開館時間よりも少し広げて、朝8時から夜21時までという、13時間のイベントを行いました。 ジャイアントルーム内や建物の外に、地域で営業しているキッチンカーや地元の飲食店の方々に出店していただいて、来場者は飲食物を購入してジャイアントルームの中に持ち込んで自由に飲食していいよ、という場所にしました。自由に食べたり飲んだりしながら、色んなイベントが起こったり、ワークショップだったり絵画の展示をしていたり。1日を通しても色んなことが起こり続けている、という場所です。赤ちゃんが寝転がれるようなスペースもつくってみたり。 山崎:この展示している絵画は、普段は市役所に飾られていたり、倉庫に保管されていたり、市場に飾られていたりと、市内の色々なところにある絵です。この日のためにお借りして展示しました。絵画を飾っている可動壁をたまに動かして、少し会場内のレイアウトに変化をつけてみたり、空間をつくり直す時間を入れたりとか。
山崎:これはすごい人がたくさんいますけども、ビンゴの時間ですね。コロナの影響で市内のイベントも中止が続いていた後のタイミングだったこともあって、このイベントを見つけて来てくださる方がとても多かったです。美術館に協力いただいて、市内の小学校にチラシを全校配布したこともあり、たくさんの人が来てくれました。
山崎:これはお昼13時ですね。八戸で活動している、日本一朝早く会える朝市アイドル「pacchi」さんのライブです。あとはベリーダンサーのパフォーマンスとか、武術太極拳の日本チャンピオンの方が八戸に在住していらっしゃって、その方のパフォーマンスだったり。
1日を通して空間全体の音楽の演出は、八戸出身のミュージシャンの大谷能生さんに音楽監督として行っていただきました。朝から晩までその空間と時間に合わせた音楽の演出を担当していただきました。 山崎:これはカラオケタイムですね。コロナの影響でカラオケ大会も自粛されていたので、どこかから情報を聞きつけたのか、「歌いたいぞ」という人たちが前のめりな感じで訪れてくれました。美術館の職員の方も歌っていたり。カラオケが行われているその横では、子供たちはワークショップをしていて。外はすごく天気が良かったので、ごろ寝している方とかもいました。
山崎:一日中、色んなことが同時に起こり続けているので、カラオケをしている後ろで、子供たちはずーっとホワイトボードに落書きをしていたりとか、皆さん思い思いに過ごしていたという印象です。
他にも建築ツアーもやりました。八戸市美術館には「アートファーマー」というボランティアさんがいらっしゃって、普段から建築ツアーをやっているので、この日も開催していただきました。 夕方からは、密度の濃い音楽ライブの時間に移っていきます。市内で活動しているクラシック・ジャズのデュオに大谷さんが加わったり。市内で活動しているアフリカン音楽のミュージシャンの方と、ベリーダンサーのコラボレーションに、さらに居間 theaterの稲継と私も加わって、会場全体を使ったパフォーマンスとして身体と物を動かしたり。夜に向けてだんだんと空間の空気を変容させていくようなパフォーマンスの時間を夕方に取っていました。 山崎:そして、夜はムーディーな空間にしながら、地元で活動されているトルホヴォッコ楽団というバンドの音楽ライブを行いました。
山崎:最後に、密かなパフォーマンス。一番広い壁のところに向かって灯りを当てて、駄洒落なんですが、ジャイアントな……でっかい人が額縁を持っている影のパフォーマンスをして、21時に終了。という感じです。
稲継:ありがとうございました。記録映像を編集してくださったのは冨田了平さんです。編集の方針として、1時間を1分に編集しているそうです。
冨田:1時間を1分に編集していて、1つの絵が全部5秒です。映像の素材自体は5時間分ほどありました。 稲継:少し補足をすると、「ジャイアントルームを使って何かやってみませんか」とお声がけをいただいた時に、まず下見に行ったのですが、本当に空間が大きくて、「これどうしよう」となったんです。で、長い時間そこに居てみたら、机にちょこんて「飲食OK」のマークがあったんですね。「美術館って普通、飲食ダメじゃない?」「すごいな」って思ったんです。広さも何となく大学の食堂とかを想起させるな、と。 居間 theaterは、元々ある場所に対してもう一つ別のフィクションを重ねるという創作の方法が多いのですが、今回は「食堂」というフィクションで考えられないかなと思いつきました。フィクションなのかと言うと、実際には飲食ができるイベントなので現実とも言えるんですが(笑)。劇でいう設定みたいなものを与えて、そこでどういう上演を起こしていけるかを考えるのが我々の大体のつくり方です。 なので、「食堂」という設定を与えた時にジャイアントルームではどういう「上演」ができるかな、と、素朴なアイデアから始まって、美術館職員のグルメな方にキッチンカーを探してもらったりもしました。地味な作業の積み重ねでできたのが「ジャイアント食堂」です。 稲継:では、早速ですが、宮崎さん。「ジャイアント食堂」の感想を伺ってもいいですか?
宮崎:まず、僕が何で当日参加していたかというと、うちの会社からも「asatte」というジェラートの店と、「TAYORI BAKE」という焼き菓子の店を出店していたからというのもあるんですが、八戸市美術館をすごく見たかったというのもあって伺いました。結構、長い時間いましたが、すごい良かったです。感想をSNSに書いた時は、「目撃しちゃったなぁ」って言葉が出てきて。なんか目撃しちゃった感があるんですよね。 何故かというと、これは居間 theaterが何かやる時に共通してるところだと思うんですが、「ここから見てくださいね」という決まりがあんまりないんですね。HAGISOでも「パフォーマンスカフェ」という企画をやっていますが、色んな視点場があります。たまたまそこにいたから見ちゃう風景とか、全員違う状態が同時多発的に起きているようなことが結構あるなと思っています。 「ジャイアント食堂」の場合は、このスケールでやったことが凄かったし、あとは台本というシナリオがある一方で、偶然もそこにどんどん重なっていくような状態がありました。一見、地域のフェスティバルみたいに見えるんだけど、その裏でハイコンテクストな仕掛けもある。そう見ている人もいるし、単純にお祭りとして楽しんでいる人も、カラオケをして楽しんでいる人もいる。あらゆる視点が同居しているというか、同じ視点で見ている人は一人もいないのではないかと思うくらい立場も違う。だけど同じ空間にいる。そういう状況が実現しているのがすごい面白いですね。 そういう場を僕もつくりたいなと思っていたんですが、森純平くんにやられてしまった感があります(笑)。 宮崎:八戸市美術館については、箱だけで完結できない建築だなとつくづく思いました。そこにアクティビティは当然必要なんだけれど、ハードに対して、シナリオ的なもの、つまりプログラミングとかコードがあることで活きる場だと思います。そういうことをこれから積み重ねていくのであろうなと思いました。それは八戸市美術館の弱さでもあり強さでもあると思うんですが。つまり、場としてほっぽり出されても、実は何も起きないかもしれないものだと思うので、そこにどういう補助線を引いていくのか。そういう一つの事例を示したなと思いました。
あとは今回、大谷能生さんが音楽を全体的にコントロールしていたのがすごく大きくて。僕が最初に館内に入った時には、クラシックが爆音で流れてたんですよね。絵を動かす時は『展覧会の絵』風の音楽が必ず流れる。と、思いきやジャズだったり、ジャンルもオールジャンルだし。そこはフラットだけど、なんていうか、あまり親切じゃないボリュームだったりする。こんな爆音で流すか、みたいな違和感がところどころにあるんですよね。稲継さんのナレーションなんかも随分と劇的に読んでいた。 恐らく、そういう背景を知らない普通のお客さんも来て、違和感を感じて帰っていくのではないかなと。それがある種、アートのいいところで、単に消費してお終いではなくて、もやっとしたものを持ち帰って、そこからちょっと深みにはまるような余地があるなと思いました。 稲継:演出的には、音楽劇だと思って「ジャイアント食堂」を上演していたんですよね。台本には音楽劇とは一言も書かれていないんですが。というのは、大谷能生さんは、舞台の音楽を多く手がけていらっしゃったり、私自身俳優として共演したことも何度かあったり、“舞台に音楽がある状態”という共通言語があるなと思っていました。とにかく大谷さんと一緒にやるなら1日の流れは音楽を軸につくりたいと。18時にアフリカン太鼓とサックスと電子音楽と朗読とダンスという空間全体を使った大きなパフォーマンスがあったのですが、そこにいる人たちがそれを受け入れられる状態に持っていくということが、ジャイアント食堂の上演的な目標としては、実はありました。食事をしている横でベリーダンスを踊っていたり、太鼓が演奏されているような混沌とした時間でした。
宮崎:彼らはどんどん動きながら館内を回って演奏していましたよね。 稲継:そうそう。アフリカン太鼓の方が動いて。私が朗読しているテキストは八戸市美術館のパンフレットなんです。「何年に建ちました」みたいな案内のテキストで、それを劇的に読む。横で、山崎が不吉に額縁を持ってめちゃゆっくり動く……という。結構カオスだし、上手くいかないと、会場に入った瞬間に「うわっ」って思って帰っちゃうと思います。でも、この時は本当にアリな感じになっていたと思います。 宮崎:この時間が一番凄かった。 稲継:凄かったよね。ご飯を食べながらおばあちゃんがノリノリで聴いていたりして。音楽劇としては一応ここをピークに持っていって、後半は音楽ライブで夜のちょっといいレストランみたいな雰囲気にして終わりたいと考えていました。 この美術館全体を使ったパフォーマンスは18〜19時の1時間、結構な爆音でやりました。これを「アリ」な状態にするために、1日かけて雰囲気をつくっていったんだと思います。だからまぁ、大谷さんがマジですごいっていう。 宮崎:やっぱり美術館というよりは劇場だった感じはありますよね。最近は、イマーシブシアターのような体験型の演劇が流行っていますが、あれは主客がすごくはっきりしているんだよね。ある施設の中をツアーで回るけど、お客さんはお客さんでしかないというか。
ジャイアント食堂では、お客さんですらパフォーマンス側に見えてきちゃったり、何ならちょっと参画してくる感じが、ぐるぐるぐるぐる混ざっていくことで立ち現れてきてしまっていて。10秒ごとくらいでステージの場所が変わっていく感じ。お客さんをただのお客さんとしていることを許さないぐらい流動的な劇場空間というか。それはすごく面白かったですね。 |