場をつくるのか、場からつくるのか:Page②脂肪なジャイアントルーム。日々、どう使う?稲継:ありがとうごさいます。広げたい話がたくさん出ましたが、先に、ジャイアントルームが良くも悪くも……みたいな話があったと思うんですが。
宮崎:ジャイアントルームが、そのままで成り立つのかどうか問題、みたいことですかね? 稲継:何でこんな広いねん、みたいな? 宮崎:建築界でもそれを批判する向きの空気も若干あったりするんですけど。ただ、プランを読み解いてみると、建築的には裏方は全然廊下がないんですよね。例えるならば、建築が筋肉と脂肪でできているとすると、普通の建築は割と脂肪と筋肉がバラバラにあるんだけど、八戸市美術館は裏方が筋肉しかなくて、残りの脂肪が全部このジャイアントルームにある、みたいなプランなんですよ。 稲継:ごめん、ちょっとわかんない。 宮崎:わかんないか。目的性のある空間と、その他の廊下とか共有部分ってあるじゃないですか。レンタブルかそうでないかとかも色々あると思いますが、要は、空間の「その他の部分」があるじゃないですか。その他の部分は大体、部屋と部屋との間に満遍なくあったりするんだけど、八戸市美術館は搬入動線からいきなり展示室に繋がっていて、廊下がないんですよ。だから、裏が筋肉質すぎて、普通の建築の無駄なところが全部表に出てきていて、建築中の廊下がここ(ジャイアントルーム)に集まっちゃってる、みたいな建築なんですよ。具体的な比率は面積表で見ているわけじゃないのでわからないけど、裏が本当に筋肉質にできているんだなって思って。 稲継:筋肉質っていうたとえが独特すぎて(笑)。でも、すごいよくわかります。 宮崎:裏側に無駄が全くない。 稲継:面白いですね。その脂肪の部分のジャイアントルームで、まだあまりイベントが行われていない状態で我々は呼んでもらったんですが、終わって去っていくときに、「これからどうなるんだろう」とすごく思いました。 山内伶奈さんに今日来てもらいたかったのは、ああいう美術館において、私は日々を運営する人が一番大事だと思っているからでして。なので、ジャイアントルームが今どういう風に、その「脂肪部分」が使われているのかを伺ってもいいですか? 山内:宮崎さんのお話にもあったように、指向性というか、「こうでなければならない」とか「こっち向きが正解だ」といったものって、何となく今まであったよなと思うんです。この場所は何をするための場所だから、自分はこう振る舞わないといけないのだろうなって、何となく考えちゃう。「もっと自由にしてね」って言っても、自由って難しいなぁ、みたいなことがすごいあると思うんですが。 まず、ジャイアント食堂ではそういう指向性が全然なくて、「自由に居ていい」の意味が少しわかったというか。どっち向きが正解とかは全然ない。そういうあり方が見えてきたなぁというのがありました。楽しい気持ちって人をフラットにするし、すごく楽しい1日でした。 最近は、そうですね。ジャイアント食堂の後は、キッズスペースは常設になりました。馬場のぼる展でも、小さい子がたくさんきてくれて、すごく転がってくれてました。ホワイトボードも、次の日からは何を言うでもなく自主的に描いてくれる子たちが増えて。何となく、「あそこは好きにしていいみたいだよ」というのが広まってきたのかなと思います。最近はメッセージボードみたいになってきて、「東京から来ました」とか「仙台から来ました」「いいところですね」みたいな。思いもしなかった使い方っていうのを、こっちで主導しなくてもしてくれるようになったのが嬉しかったですね。 稲継:カラオケも常設したらいいと思う、本当に(笑)。
山内:カラオケも、こんなに自由に歌える場所ないというか。聴いてもいいし聴かなくてもいいけど私は歌いたい、みたいな感じでしたよね。 稲継:ありがとうございます。この流れで森さんにも話を振りたいのですが。今回私が、森くんすごく良いなと思ったのは、設計者の一人でありながら、作品をつくるすごく地味な部分から関わってくれたんですね。マステで養生するみたいなところから。恐らく、ジャイアントルームの設計をした時の脳みそと、作品をインストールしていく際の動き方って違ったのではと思うのですが。自分が設計した場所で作品の創作に関わりながら、どういうことを考えていたのかなというのを聞きたいです。 森:イベントをやっている時はむしろ、普通にイベントを回している印象でやっていました。 感慨深かったのは、ハレとケのバランスみたいな部分ですね。「ジャイアント食堂」はハレっぽく見えますが、美術館にとってはどちらかというとケの場で。展覧会を見にいくことがハレで、そうじゃないところ(ケの部分)をどうやって活かすか。僕も本番前の一週間くらいをジャイアントルームで過ごしましたが、どういう照明がいいかとか、お腹が空いたからみんなでおにぎり作ったりとかしていて。あとは絵を探しにいくとか、職員さんが朝市に行ってキッチンカーをスカウトしてくるとか、そういうプロセスの部分をうまく日常の場で見せられたらいいなと常々思っていました。 美術館の人にも「こんな感じでやればいいんだ」とシェアできたらなと思っていたことが、今回初めてできたので。今後も、展示のたびにアーティストが来たら「次の展示の企画練ってるんだよね」とか「あのおばちゃんのところに相談に行こう」とか色々できたら、こういう活動が日常化するかなぁとか思っていたりしました。 稲継:ジャイアント食堂を通じて、日常的に運営している職員さんからその後こういう話があったとか、意識的な部分でちょっと変わった部分があるとか、山内さんから見て何かありましたか? 山内:そうですね。スタッフの中でも、「ここは美術館である」っていう意識がやっぱりあったりして、「こうでなくてはならないのではないか」みたいなことはありますが、ちょっと包容力?が上がってきたかなというのはありますね。自分達がメンテしなきゃっていう使命感というか、何とかしなきゃ、みたいな感じから、もっと市民主体の場所になるにはどうしたらいいかということを考えるようになったかなとは思います。 |