だれが残すのか、なにを残すのか、どう残すのか:Page②
映像を見て振り返るジャイアント食堂東:では冨田さん、記録映像はどういう感じで編集したんでしょうか。
冨田:様々なイベントが朝8時から夜21時まで立て続けに起こっていたので、とにかく膨大な量の映像素材が撮れました。そのため、何かしらのルールを決めないと編集が難しい、というのがまずありました。この映像は、今回は編集のプラン1としてですが、実際の1時間を1分間に編集しています。1時間に起きたことをワンカット5秒ずつで切りとり、その5秒を12カット繋げて、1分になって、それで1時間が経過する。で、その1分が13個並んで、計13分(13時間のイベント)の映像にするというルールのもとに編集をしました。 なぜこのような編集方法にしたかというと、たくさんの場面のなかからどのシーンをどのくらいの長さで切り出すかを考える際に、こういう場面を多く残したほうがいいのではとか、そういう自分の作為が出てしまう。今回は起こったすべての出来事をフラットに記録することが重要だと思ったので、このようなルールを決めて編集をしました。 東:では映像を見ながら、1日のことを振り返りつつ説明します。皆さん、思い出したことがあったら言ってくださいね。 加藤:これ、朝8時にオープンですよね。普段の開館時間より早いんですよね。
東:そうです。普段は10時から19時までの開館ですが、ジャイアント食堂は8時から21時までオープンしました。1日かけて音楽家の大谷能生さんがついてくださっていて、全体の音楽監督をしてくださいました。 宮武:結構朝から人が来てくれたんですよね。 東:空間を見ていただくと、白い壁があると思うんですが、移動する展示壁です。これに八戸市内から色々とお貸りした絵画を展示していました。美術館の皆さんもすごく協力してくださったので、普段から展示監視をしている案内員さんや、受付をやってらっしゃる総合案内員さんと協力してやっています。 朝8時30分からカンフー体操教室。運動をします。 加藤:展示壁にかかっている絵画は全部、街からお借りしている?
東:絵は、八戸市庁(市役所)や市場に飾られている絵を一時的に借りてきています。なぜかというと、ジャイアントルームはオープンスペースで入口と面していることもあり、展示室と同様の空調管理ができないそうで。美術館に収蔵している作品は、空調管理ができないジャイアントルームに出せないという制約がありました。でも、街の中に展示されている作品だったら(もともと環境が厳密に管理されていないので)借りてきて展示ができるという、面白いねじれがあって、借りてきました。 宮武:ちなみに絵は、八戸市美術館がコレクションしてる作家さんの絵で、八戸市のまちなかにあるものを借りてきています。 東:で、10時になると、誰が来て歌ってもよい、カラオケタイムが始まっておりまして。その横で額縁をつくるワークショップをやってます。ワークショップは𡈽方くんが中心にやってくださいました。
𡈽方:ワークショップもあれですよね。本当は2回だったのが、人が多すぎてホワイトボードにらくがきコーナーを急遽……。 東:そうそう。小学校にチラシを全校配布していただいたら、子どもたちがたくさん来てくれて。アクティビティを皆やりたい!という感じで。急遽、らくがきコーナーとしてホワイトボードを使えるようにしたり、工作やお絵描きもやっていいように転換しました。 東:あとは、ジャイアントルームの紹介映像を展示していたり。地元のラジオFM局とコラボしてラジオの公開収録をしたり。 飲食物は、キッチンカーや地域で出店しているお店屋さんを呼んでいます。美術館自体は中心街の一歩駅側に行ったところに立地しているんですが、入口前が広場になっていて、キッチンカーを円状に配置してもらって販売してもらいました。 東:また、八戸市美術館には「アートファーマー」というボランティアさんがいらっしゃって、その方々が各自の独自ルートで建物を案内してくれる建築ツアーがあるので、この日もやっていただきました。
たまに、パフォーマンスとして展示の壁が動きます。 東:お昼になると大ビンゴ大会が始まって。そうしたら人が大量に来ました。
加藤:すごかったですね。 東:殺到しましたね。ビンゴの司会をやってくださっているのは美術館の元職員さんと副館長です。 東:八戸は朝市が有名で、朝市アイドルの「pacchi」さんに出ていただけないですかとオファーをしたところ快諾していただいて、ライブをしてくれました。
そのあと、午後の武術太極拳のパフォーマンスです。 お昼頃には立て続けにパフォーマンスが起こっているんですけど、一方で、ワークショップのところでは子どもたちが遊んでいたり、飲食を普通にしていたりと、結構色んな層がいました。 この赤い線は、朝のパフォーマンスで引いた四角い線が残っているところですね。 冨田:14時は結構、平和だったんですね。(映像を)撮る側からすると。
東:そうなんだ。 冨田:イベント系がなくて、追われてないからのんびりとした感じでした。 東:時間によって雰囲気が変わったりとか、物理的に壁を移動させたりしているので、全体の雰囲気が変わったりするんですけど。起こることによって雰囲気がどんどん変わっていくんですよね。 午後はカラオケタイムとワークショップタイムが再度やってきます。 𡈽方:ワークショップとの音量のせめぎ合いがあったりしたんですよね。カラオケが大きくて声が聞こえないとか。 東:そうだった。もともと地元のカラオケ大会みたいなものがどうやらよくあったらしいんですが、コロナでことごとく中止になっていて。そういう方々が嗅ぎ付けてきてくださったりとか。後ろで子どもが気にせずに絵をめっちゃ描いてる。カラオケの前にちょっと席を出していて、座って手拍子をしながらのんびり聞いているおばあちゃんとかもいらっしゃったり。 宮武:お孫さんが学校で「ジャイアント食堂」のチラシをもらってきて、そこにカラオケって書いてあるので、おじいさんやおばあさんから「いつカラオケやるんですか」って美術館に問い合わせが来たりしたらしいです。 東:夕方になると、音楽の時間が増えていく感じになっていて。面白かったのがクラシックとジャズのコンサートでした。クラシックとかは皆、ちょっと真面目に聴く雰囲気になって。おばあちゃんとかがしっかり曲を聴いているのが印象的でした。ピアノは八戸市美術館の学芸員さんです。 東:さらに時間が下ってくると、音楽パフォーマンスと居間 theaterのパフォーマンスが絡み合っていく時間が始まります。18時から1時間、パフォーマンスをし続ける時間ですね。 八戸で活動されているアフリカン太鼓のミュージシャンと大谷さん、あとベリーダンサーがコラボして。で、ここに居間 theaterの稲継と山崎のパフォーマンスが絡む。稲継が喋っているのは八戸市美術館のパンフレットのテキストです。そこに一緒に絵が動いて、全体がどんどんうねって変わっていくような時間をつくろうとして、こういうことになっています。 東:夜になると西日もだいぶ落ちてどんどん影が出て、さらに暗くなっていく。最後に、地元で活動されているトルホヴォッコ楽団さんにライブをやっていただきました。 東:美術館の中は、ジャイアントルームを中心に、スタジオ、ギャラリーといった部屋が接続しているんですね。そのスタジオを箱のように使ってライブをしてもらいました。 で、21時になって、閉店して終わるという感じです。 東:それで、これらは1日の....「催し事」というか、「イベントごと」としてオープンしているんですけど。 居間 theaterとして企画構成をするにあたって、第一の目的はさっき言った通り、とにかくジャイアントルームを使って、色んな方に来ていただくというのが一番大きな目的なんですけども。 一方で、もう一つのモチベーション、スタンスみたいなものが、この白い冊子にあって。これが上演台本みたいになっているんですが、「ジャイアント食堂」が朝から夜までのすごく長ーいパフォーマンスであるという考え方で、台本に沿って出来事が進んでいく。 「催し事」と「上演」、2つの側面を両立させようというか。作品的な「上演」の時間と、皆が楽しくハッピーにいられる、いわゆる「催事」みたいな時間が、常に拮抗しながら進んでいくようなことができないかなと思って、こういう上演台本を用意してみました。 なので、音楽の時間や空間の明るさなどは、全体の構成の中で意識されて終わりに向かっていくと考えてやっておりました。 東:以上が、ジャイアント食堂の大きな概要です。13時間を13分でまとめられた映像を見たら、すごい見た気になって疲れちゃいましたね(笑)。 実際は、皆それぞれの持ち場にいて、それぞれのことをやっているので、もちろん全体で何が起こっているかを100%捉えられている人は誰もいません。それぞれの見たものや、それぞれのあった出来事が有象無象にあったし、実際は全部をコントロールしていたわけでもありません。 段取りというか、タイムスケジュールに沿って1日が進んでいくんですが、その中で来てくれた人がどういうふうに過ごすか、どういうふうに振る舞うかは完全に予測不能ですし、その場で起こったことをどんどん受け止めていくようなつくり方をしていました。 というわけで、こういった複雑な、色んな人がいて、色んな人が関わっているプロジェクトを誰がどう、そして何を残すのかというところに話を繋げていきたいと思います。 |