場をつくるのか、場からつくるのか:Page③場が目的化する?
稲継:宮崎さんのところのHAGISOは、「最小文化複合施設」って名乗っているんですよね。なんじゃそりゃ、おっきいんかいちっちゃいんかいみたいな。複合施設というと大きそうなイメージがあるけれど、実際は元アパート、大きめの一軒家みたいな感じの場所なんです。
今回、このトークのタイトルを、「場からつくるのか、場をつくるのか」と付けてみました。つまり、ジャイアントルームとか、最小文化複合施設とか、設計者が設計をしてその場に名前を付けた後に、アーティストが実際にその場に入って、場所に誘惑されて作品を思いついたり、やってみたりしますよね。それを積み重ねていくと、最初に名付けて思い描いたものとはまた違って変化していくことがあると思います。 建築家・設計者の側から見て、宮崎さんは最小文化複合施設から出発して、そういった変化をどう捉えていますか? 宮崎:先日、群馬県の前橋市に「しののめ信用金庫」という僕らが設計した銀行がオープンしました。銀行なんですが、銀行機能の部分を全体の半分以下くらいにぎゅっと小さくして、それ以外を外のような空間にしています。コーヒースタンドがあったり、銀行の営業終了後19時くらいまで誰でも使えるライブラリーがあったり。フリーWi-Fiで自習も仕事も会議もできる、みたいな空間がある銀行をつくりました。そのロビーのあり方と、八戸市美術館のジャイアントルームのあり方って共通するものがあるなと思っていて。 ちょっと建築に寄せた話をしてしまいますが、しののめ信用金庫ができた時に考えたのは、建築自体が目的化しちゃう時の危うさについてです。その建築の敷地の中でどういうパフォーマンスをするかということだけを考えがちだけど、もっと俯瞰した目線、つまり街とか都市の目線で考えなくちゃいけなくて。身体で言ったら、その建築・その敷地がどういう臓器になるのか。どういうパートを担えるのかというのが大事だと思うんですよ。 都市に従属するのでも、反抗するのでもなく、都市そのものになる建築ってどういうものがあるかなと、最近は考えているんですが、しののめ信用金庫はそれができている感じがすごくしているんです。敷地内に新たに道をつくって、それを街に接続させているので、建築というよりはほとんど街そのものかなというものができました。 宮崎:僕が、八戸市美術館に行く前に話を聞いていて思っていたのは、「でかい最小文化複合施設」だな、と。そういうものを、あえてわざわざ新築で大きくつくる必要があるかは、正直、今もわかりません。わかんない気持ちが半分くらいあります。それはむしろ、都市の中から発展していくべき場なのではないのかなとも思っているんです。確かに、達成しているものはすごいクオリティが高いし、八戸にとってもいいことだと思うんですが、日本中でこれをやっていくとすごい大変なので。どちらかというと、今ある場をそういう場として読み替えていく力の方が、全国的には必要なことではないかと。
ポテンシャルのある場というのは、使われていない体育館とか駅とかたくさんありますよね。なので、「この空間じゃないとできないこと」をどのくらい証明できていくかが、その場の価値になっていく。ジャイアント食堂を体験して、ここじゃないとこの瞬間は生まれなかったと思いました。後は、それをどう頻発させていくかかと思います。別に毎日その状態じゃなくていいと思うけれど、もうちょっと気軽に頻発させていったらいいんじゃないかなと思いました。 あとは都市の中の動線でいうと、美術館は目的地という感じの場所だし、アプローチもエントランスに回って廻っていく感じなので、どういう風にしたらうっかり寄っちゃうような場所になるだろうというのが、まだわからないというか。そうでないと都市の一部になれない気がするんです。あくまで「施設」として行く場所になっちゃう。なので、迂闊に行っちゃう仕掛けをしていく必要があると思うんだけど、どういう可能性があるかは見てみたいですね。 稲継:うっかり人を誘い込むということについては、今回の大発見は、のぼりを立てる。いや本当に(笑)。皆吸い込まれるように来ました。「ジャイアント食堂オープン」というカラフルなのぼりを外に立てたら、食堂が本当に出来たのかなと思って、皆、スーって。で、入ると一応、食堂っちゃ食堂だから(笑)。それはちょっとチャーミングな作戦だなとは思いました。それで中で面白い思いをして帰って行ったら良いのかなと。「あ、このノリ知ってる」って思って入ってきちゃう。無料だし、入るだけならって。 稲継:この問いについては、森くんはどう思いますか?
森:難しいですよね。僕も別に、新築が必ずしもいいとは思ってないし。そこのバランスは難しいのと、都市との関わり方についても、中心街があってそことダイレクトに繋げられるという立地でもない。どちらかというと離れ小島というか、入ったら落ち着けるような場所というので、敢えて少し正面を閉じたり、その塩梅は当然考えたんですが。 とはいえ、街と繋ぐということは、単純に街に向けてガラス張りにするという解答ではないはずなので。むしろ、楽しそうなことができる場をどういう風に内包するか、という脳で設計をしたかなと。なのでまだこれからだなという気もしてますね。 宮崎:そういう意味では、やっぱり劇場として優秀なんだと思いました。母家に対する下屋の部分が、それぞれ音響設備と音響環境の違う小さい部屋がくっついていて、背景にその部屋を背負ってジャイアントルームが客席になる。それぞれの小さい部屋がステージになることで場面が変わっていった。あれがすごい機能していると思います。 劇場とかパフォーマンスに対して優秀な空間だというのは分かったので、それが普段どうなってくかですよね。確かに美術館側が全部を企画してやるのはすごい大変だから、「こういう風に使いたいんだけど」みたいな人たちをどんどん育てて行くことが重要なんだと思いますね。 |