場をつくるのか、場からつくるのか:Page④広いからこその包容力、制約から生まれる表現山崎:ちなみに、ジャイアントルームの実際の貸し出し方はどうなっているのですか?
山内:ギャラリーの前のエリアは、区画が1・2とあって貸し出しています。反対側も同様に区画で貸し出しができるようになっていて、それ以外の場所は平米貸しができるようになっています。 山崎:部分的にも借りることができる。 山内:そうなんです。なので、「こんなことやりたい」という相談を受けて、このくらいのスペースを使うかな、じゃあいくらになるかな、というのも相談しながら貸し出しをしていますね。 山崎:ジャイアントルームって普段から、ミーティングしたりパソコンで仕事したり、ご飯食べたり、テーブルを使って編み物をしたりとか、小さい作業スペースとして使うのは自由に使っていいよ、というスタンスだと恐らく思うんですけど、それとは別に平米貸しにするときは、その場所を占有して使っていいみたいなことなんですかね。展示をしたりとか? 山内:そうなんです。展示したりとか、この間はイーゼルを立ててデッサン会をしていました。なので、私たちもその度に模様替えをするみたいな感覚です。この移動棚を動かして場所を開けて、とか。模様替えをして自由に使ってもらえるようにはしていますね。物販もありです。 宮崎:複合施設化していった時に、色々な人が使いたいと来ますよね。HAGISOだと空間は小さいですが、やってくれる人を選んでいます。ディレクションしてとか、フィルターをかけて。民間の場所なのでそうなんですが、公共の場合って選べるんですか? 山内:選べません。 宮崎:選べませんよね。使いたいって言われたら、変な宗教とかじゃない限りはやって良いよとなると思うんですけど。その時に、なんていうか、場の空気を持っていかれすぎちゃう可能性もあるじゃないですか。つまり、いつもカラオケをやっている場所になると、ここはカラオケルームですかってなっちゃう。アクティブでも偏りすぎている活動だけが起きちゃうと、そこに持っていかれちゃう可能性があって。そこのコントロールがすごい難しいなと思うんですよね。何も起きないことも問題だけど、誰かだけがやっていてもおかしいというか。そういう状態にならないようにはどうすればいいのか。 そう考えた時に、ジャイアント食堂はある意味選んでいるだろうけど、でも選んでいないというか。なんていうかな、ダサいからダメとかないじゃないですか。そういうことじゃない。 その多様性が受け入れられていて、でも通奏低音みたいなものが一応通っている。それは大谷さんの音楽かもしれないし、台本なのかもしれないけど、だからイベントとして成立していたと思うんですね。一貫性があったというか。 そう考えると普段も、場の空気が通奏低音になるから誰でもOK、なのか、もうちょっとルールを作っていくべきなのか、というところで。場の程よい緊張感が失われるのか、オーラみたいなものが失われるのか、とか。あまりにもケな場所になりすぎて、だらしない場所になってしまう可能性だってあるじゃないですか。その辺のコントロールって運営上の肝になるし、難しいけど、場合によっては素晴らしくなる。ジャイアント食堂は、そのシミュレーションにはなったと思うんですよね。こんなにぐちゃぐちゃでも場としては成り立っている状況を体験したので。そういう意味で「やっていいんだ」感は出たけど、この後どういう風に、その塩梅をチューニングしていくのかが気になりますよね。 山内:そうですね。コントロールしていくという考え方は、公共施設という理由もあり、今のところないんですけども。でもその時に、広さはすごく活きているなと思って。片隅で何かやっていても、もう片方の隅では全然違うことをしているし。 山崎:(空間的に)距離があるし。 山内:そうなんです。けど、何か上空では繋がっているような。なんて言うんでしょう。入り込みすぎない、一つに染まりすぎない広さと、包容力があるスペースかなとは思っていますね。まだもっと親しんでもらえるように頑張っていきたいなと思っています。 宮崎:本当に僕もそうだと思いました。広いこと、つまりジャイアントであることが、そこを許しているところがあって。HAGISOでやっちゃうと、コーヒーを飲んでいる横で、エグいアートとか置けないんですよね。ゴキブリを食べるアーティストとか、やりましたけど(笑)。 一旦はそこにフィルターをつけなきゃ成立しない。でもそれって自由なのかみたいなことはあるんですが。そのギリギリの調整も面白いんだけど、ジャイアントルームの場合、圧倒的な広さが包容力に変わっているというのは確かにありますよね。音の面からしても、非常に吸音性が高いので、音が反響しすぎないとか。 稲継:そういう意味では、居間 theaterも初期の頃は、HAGISOが最小でどうしても干渉してしまうが故に起きる状況に向けて、ダンスとかパフォーマンスを一生懸命インストールしようとしていました。HAGISOが小さすぎるが故に編み出した、今でも本当に気に入っているダンスがあるんです。主に山崎にしかできないんだけど、家具みたいなダンス。作曲家のエリック・サティの『家具のような音楽』という考えがあるのですが、ダンスでもできるかもって思って、山崎に「壁の染みみたいに踊れ」って(笑)。ちょっとだけ染みが広がったり、壁に止まってたイモリがちょっとだけ動いたみたいなダンスです。それはコーヒーを飲みながら目に入ってもなぜか面白いし嫌じゃないし、こっちも「家具のような」という信念は絶対ぶらさないぞ、みたいな。せめぎ合いの中で生まれた謎の手法だったけど、その時体得したものは、その後もわりと色んな状況で活きたなとは思って。どこにでもスッと入れちゃうという。 宮崎:HAGISOで、隣でカラオケ歌われたら本当に地獄じゃないですか。
稲継:それはもはや貸し切って楽しいカラオケ大会にした方がいい。 宮崎:遠くの方だったら、まあいいんだろうなとは思うし。「場がつくるのか」について考えると、場から生まれるパフォーマンスのあり方は自ずと出てくるでしょうね。 稲継:そうだね。場に誘惑される感じもあるし、もっというと制約が結構、面白いよね。HAGISOはとにかく柱が邪魔で、劇場として使おうとするとこの席も見切れ、この席も、みたいになって。それで嫌になっちゃって思いついたのが、パフォーマンスカフェっていう作品でした。HAGISOの1階を全部カフェにして、カフェでパフォーマンスを注文して近くで見たり遠くで見たりできるという仕組みの作品なのですが、きっかけの一つとしては本当に柱へのストレスがすごすぎて、でしたね(笑)。 宮崎:制約が生み出した表現だ。 稲継:そうそう。そうすると柱を登り出すアーティストとかが出てくるんですよね。そうしたら柱がめちゃくちゃ輝き出したっていうか。 宮崎:ポールダンスみたいになっちゃったんだ。 稲継:そう。それで皆、柱大喜利みたいに。元々は制約だったんだけど誘惑に変わっていくというか。それは本当に良かったし、HAGISOの小さいスペースで鍛えたインナーマッスルみたいなものが、こういう広い場所になった時も意外と活きているな、と。
ところで面白いのが、私が場所に誘惑されるという話をしたら、むしろ山崎は「ジャイアントルームは全然、誘惑的ではない場所だったよ、私にとっては」って言ってて。 山崎:えっと、12月にお話をいただいて、1月の半ばにまず下見に行ったんですよ。そしたら、建物の外観からして洗練されてるし、真っ白だし、置いてある机とか椅子とかも全部おしゃれだし。嫌な感じはもちろんないんですけど。この広い、洗練された場所で何をするか、一旦途方に暮れるような時間があったなと思い出したんです。場を開くといっても、美術館はいつでも開いてるし。 で、言い方に語弊があるとアレですが、「俗っぽいもの」をとにかく引き入れてこようと、話したんですよね。街中にあるものとか、元々地域の人々が慣れ親しんでいるものを、むしろこの洗練されたジャイアントルームにどんどん引き入れてやるぜ、みたいなことは考えていた気がします。 森:話が戻るんですが、ジャイアント食堂のカラオケは、音量の調節とかをシビアにやっていましたよね。つい大きくしがちだから、最初10デシベルぐらい小さくして、歌う人が音を大きくしようとするのも少しセーブして。とはいえちょっと大きく……みたいな、細かいチューニングをしていました。その結果、うるさすぎず、遠くで何となく聞こえる、みたいな。 本当は皆が聴いてくれるのがベターかもしれないし、あれは最高のカラオケスポットではないと思うんだけど、それよりも、気ままに歌える距離感とか、ジャイアントルームなりのカラオケのあり方みたいなものを、細々としたところでチューニングしてたなって気がします。実はチラッと調整があった。 あと、複数の出来事や活動があるのはジャイアントだからという話がありましたが、設計の段階から、3つくらい企画が同時にある時にどうしたらいいかというのはシミュレーションしてあって。ジャイアント食堂の時は使わなかったですが、カーテンで区切ったり、可動棚を使ってレイアウトしたりとか。そういう調整ができるような仕掛けはつくっています。 稲継:そうなの。ジャイアントルームのいい所は、やっぱり可動壁とかカーテンで実はレイアウトがかなり変えられるというのがあって。その面白さみたいなのは試せてないなぁ。
今回の時点では、ちょっと区切ったら会議とかしやすいよね、といった感覚はよくわかったけど、もっと攻めたレイアウトって何だろうって。小学生が来た時に「あ、このレイアウトってことはあれやっていいってことだ」ってぐらい、場所とのコミュニケーションがレイアウトから感じ取れる、とか。「机がこういう風に並んでいるってことは、今日アレだー!」みたいにもできるのかなって。 |